私の家へ! 私の家へ!」
間違ったことばかり云っている。
でもし民弥が冷静だったら、当然疑いを挿んだろう。ところが民弥は冷静ではなかった。心がとうから茫《ぼうっ》としていた。で老人の出鱈目が、出鱈目でないように思われた。
そこで民弥は夢中のように、老人の腕へ縋ったが、
「お爺様! お爺様! お爺様! さあさあ連れて行って下さいまし! さあさあ、逢わせて下さいまし、右近丸様は大事なお方、お逢いしなければなりません! 逢いとうございます、逢いとうございます! どうぞ逢わせて下さいまし! 貴郎《あなた》のお家へ! 貴郎のお家へ! さあさあお連れ下さいまし!」
「うむ、しめた!」と云ったように、老人は凄く笑ったが、「合点《がってん》々々お連れしますとも! さあさあ急いで参りましょう。私の家は柏野で。そこにあるのでございますよ。少し遠いが元気を出し、走って行きましょう、走って行きましょう!」
そこで二人は走り出した。
往来の人が振り返る。さも不思議そうに二人を見る。一人は兇相の老人である。一人は無邪気な娘である、それが走って行くのである。不思議そうに見るのは当然だろう。
だが民弥は夢
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