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※[#歌記号、1−3−28]人買船の恐ろしや
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するともう一人が後を続けた。
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※[#歌記号、1−3−28]どうせ、売らるる身じゃほどに
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するともう一人が後を続けた。
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※[#歌記号、1−3−28]しずかに漕ぎやれ船頭殿
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人買船の歌なのである。
とその時奥の部屋から女の泣声が聞こえてきた。
「まだあの女は泣いているわい」
「どうせ売られて行く女だ、思うさま勝手に泣くがいい」
昼だというのに部屋の隅に、幾本か紙燭《ししょく》が燈《とも》されている。話声を戸外へ洩らすまいと、雨戸を閉ざしているからである。壁には影法師が映っている。床の上では狼藉《ろうぜき》とした、銚子や皿小鉢が光っている。
綺麗な娘を攫って来て、遠い他国へ売り渡す、恐ろしい恐ろしい人買共の、此処は巣であり会所なのであった。
そうしてここにいる人間どもは、その恐ろしい人買なのであった。
と、部屋の片隅に、壁へ背中をもたせかけ、考え込んでいる少年があった。刳袴《くく
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