ちへ来い!」
そこで二人はひた走った。とまた一方から声がした。
「こっちだこっちだ、こっちへ来い!」
そこで二人は方向《むき》を変え、声のする方へひた[#「ひた」に傍点]走った。
とまた一方から声がした。「こっちだこっちだ、こっちへ来い!」
そこで二人は方向を変え、声のする方へひた[#「ひた」に傍点]走った。
すると今度は八方から、嘲ける声が聞えてきた。「こっちだこっちだ、こっちだこっちだ!」
怒りを発した右近丸は今は平素の思慮も忘れ、ひたむきに一本の道を辿り、サーッばかり[#「サーッばかり」はママ]にひた走ったが、ハッとばかりに気が付いて立止まって背後《うしろ》を振り返ったが、「南無三宝! 民弥殿が見えぬ」
――民弥とはぐれて[#「はぐれて」に傍点]しまったのである。
さてその翌日のことである、一人の女が物思わしそうに、京都の町を彷徨《さまよ》っていた。
20[#「20」は縦中横]
ほかでもない民弥《たみや》である。
どうしてさまよっているのだろう?
右近丸《うこんまる》を探しているのであった。
それは昨夜《ゆうべ》のことであったが、洛外北山の山の中で、不
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