をやった。
 大森林が聳えている。月光もその中へは射し込まない。宏大な城の鉄壁のように、ただ黒々と聳えている。
 気強《きじょう》とは云っても女である、民弥は思わず身顫いをしたが、「右近丸様!」と寄り添った。「妖怪《もののけ》などではございますまいか」「なんの!」と右近丸は一笑した。「妖怪ではござらぬ、人間でござる。思いあたることがございます! 不思議な巫女を頭とした、奇怪な庭師の群でござる。かつてこの場でそれ等の者と、邂逅《いきあ》ったことがございます。詳しいことはお後で申す。せっかくここ迄追い詰めて来て、猪右衛門と玄女を逃がしては、これ迄の苦心も無になります! 進む以外に法はない! いざ民弥殿手を取り合い!」
 恐れぬ二人、右近丸と民弥は、サーッと森の方へ駈け上った。
「汝等《おのれら》来るか!」と物凄い声がふたたび森林から聞こえたが、すぐにバラバラバラと飛礫《つぶて》が雨のように降って来た。
 だが恐れない二人であった。サーッと上へ駈け上る。
 と、一つの辻へ出た。森林の中に八本の道が、全く同じ形をとり、八方へ延びているのである。
 と、一方から声がした。「こっちだこっちだ、こっ
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