ガラと何物か投げ出された。
「あッ」と叫んだは猪右衛門、でもんどり[#「もんどり」に傍点]打って転がったが、鎖で足を巻かれている。
 同時に叫んだは玄女である。同じくドッタリ倒れたが、是も鎖で巻かれている。
「先ずは捕った」という声がして、灌木の陰から現われたのは、六七人の庭師であった。
「有無を云わすな、猿轡をかけろ、それから担いで引き上げろ!」一人の庭師が囁いたが、これ他ならぬ四郎太であった。
 ※[#「足+宛」、第3水準1−92−36]《もが》く玄女と猪右衛門を担いで庭師の去った後は、月光が木の葉を照すばかり、沈々《ちんちん》として静かである。が、次の瞬間には、驚くべき事件が行なわれた。と云うのは玄女と猪右衛門を、追って来た民弥と右近丸が、ちょうどここまで辿りついた時、荒々しい男の叫び声が、こう聞こえてきたからである。
「帰れ帰れ、巷の者共、穢してはならぬよ、処女造庭境を! そこから一歩踏み込んだが最後、迷路八達岐路縦横、再び人里へは出られぬぞよ!」
 続いてドッと笑う声が天狗倒しの風のように、物凄じく聞こえてきた。「おっ」と云ったは右近丸で、ピッタリ足を止めたが、声のした方へ眼
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