ちつ》き払った巫女の声が、同じ場所から聞こえてきた。いぜん鏡を捧げている。キラキラキラキラと反射する。それが若武士の眼を射る。どうにも切り込んで行けないのである。
とはいえ若武士も勇士と見える。両眼|瞑《つむ》ると感覚だ。柄を双手に握りしめ「ウン」とばかりに突き出した。
だが何の手答えもない。ギョッとして眼を開いた眼の前に、十数本の松火《たいまつ》が、一列にタラタラと並んでいた。
異様の扮装をした十数人の男が、美々《びび》しい一挺の輿《こし》を守り、若武士の眼前《めのまえ》にいるではないか。
いつの間にどこから来たのだろう? 森の奥から来たらしい。町人でもなければ農夫でもない。庭師のような風俗である。そのくせ刀を差している。その立派な体格風貌、その点から云えば武士である。
若武士などへは眼もくれず、巫女の前へ一斉に跪坐《ひざまず》いたが、「いざ姫君、お召し下さりませ」
「ご苦労」と家来に対するように、巫女は鷹揚に頷いたが、ユラリとばかりに輿に乗った。
「さようならよ、逢いましょうねえ、いずれは後日、ここの森で……綺麗で若くて勇しい、妾の好きなお侍さん」[#「妾の好きなお侍さん
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