て来たのだよ。だが今夜はお帰りよ。そうして妾を覚えておいで、もう一度ぐらいは会うだろう、お帰りお帰り、さあ今夜は」
馬鹿にしきった態度である。
本当に怒った若い武士は、手捕りにしようと思ったのだろう、「観念!」と叫ぶと躍りかかった。
それより早く、不思議な巫女は、サ――ッと後へ飛び退いたが、「お馬鹿ちゃんねえ」と云ったかと思うと、片手をヌーッと頭上へ上げた。キラキラ光る物がある。巨大な星でも捧げたようだ。カーッと烈しい青光る焔《ほのお》、そこから真直ぐに反射して、若い武士の眼を射た。魔法か? いやいやそうではない。胸にかけていた円鏡そいつを右手に捧げたのである。
だがそれにしても不思議である、いかに月光が照らしたとは云え、そんな鏡がそんなにも強い、焔のような光芒をどうして反射したのだろう?
「あッ」と呻《うめ》いた若い武士は、二三歩|背後《うしろ》へよろめいたが、ガックリ地面へ膝をついた。しかし勇気は衰えなかった。立ち上ると同時に太刀を抜き、
「妖婦!」と一|躍《やく》切り込んだ。
「勇気があるねえ、いっそ[#「いっそ」に傍点]可愛いよ。だが駄目だよ、お止めお止め」
沈着《お
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