歩いて行く。
「一体どこまで行くのだろう?」若武士はいささか気味悪くなった。だが断念はしなかった。足音を忍んでつけて[#「つけて」に傍点]行く。
一際こんもり[#「こんもり」に傍点]した森林が、行手にあたって繁っている。ちょうどその前まで来た時であった。巫女は突然足を止め、グルリと振り返ったものである。
「若い綺麗なお侍さん、お見送り有難うございました。もう結構でございます。どうぞお帰り下さいまし。これから先は秘密境、迷路がたくさんございます。踏み込んだが最後帰れますまい」それから不意に叱るように云った。「犯してはならぬよ我等の領地を! 宏大な「処女造庭」境を!」
「おっ」と若武士は驚いたが、同時に怒りが湧き起こった。「何を女め! 不埒《ふらち》な巫女! 二条通りで我君の雑言、ご治世を詈ったそればかりか、拙者を捉えて子供扱い、許さぬぞよ。縛め捕る!」ヌッと一足踏み出した。
「捕ってごらんよ」とおちついた[#「おちついた」に傍点]声、それで巫女はまた云った。「悪いことは云わぬよ。帰るがいい、お前が穢《きたな》い侍なら、北野あたりで殺しもしたろう、可愛い綺麗な侍だったから、ここまで送らせ
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