き》から群集の中にまじり、巫女の様子をうかがっていたが、思わず呟いたものである。
「洛外《らくがい》北山に住んでいて、時々|洛中《らくちゅう》に現われては、我君を詈り時世を諷する、不思議な巫女があるという、困った噂は聞いていたが、ははあさてはこの女だな。よしよし後をつけ[#「つけ」に傍点]てみよう。場合によっては縛《から》め捕り、検断所の役人へ渡してやろう」
そこで後を追っかけた。
町を出外ずれると北野になる。大将軍から小北山、それから平野、衣笠山、その衣笠山まで来た時には、とっぷりと日も暮れてしまい、林の上に月が出た。巫女はズンズン歩いて行く。若武士もズンズン歩いて行く。
2
もうこの辺りは山である。鬱々と木立が繁っている。人家もなければ人気もない。夜の闇が四辺《あたり》を領している。ズンズン恐れず巫女が行く。着ている白衣《びゃくえ》が生白く見える。時々月光が木間を洩れ、肩のあたりを淡《うす》く照らす。
鹿苑院《ろくおんいん》金閣寺、いつかその辺りも通ってしまった。だんだん山路が険しくなる。いよいよ木立が繁り増さり、気味の悪い夜鳥《よどり》の啼声がする。
巫女はズンズン
前へ
次へ
全125ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング