な》っているのだ、恐ろしいものが! 日本の国は買われるだろう、日本の国は属国となろう。解くものはないか、南蛮寺《なんばんじ》の謎! いや恐らくあるだろう、解くがいい解くがいい! 幸福が来る、解いた者へは! だが受難も来るだろう! だが受難を避けてはならない! どんなものにも受難はある。受難を恐れては仕事は出来ない……ここに集まった人達よ!」
 ここで俄《にわか》に巫女の言葉は嘲笑うような調子になった。
「どんなに妾《わたくし》が説きましても、皆様方には解《わか》りますまい。解っているのは日本で数人、信長公にこの妾に、香具師《こうぐし》の頭に弁才坊、そんなものでございましょう。さあ其の中の何者が、最後に得を取りますやら、ちょっと興味がございます。オヤオヤオヤ」と巫女の調子はここで一層揶揄的になった。
「馬に念仏申しても、利目《ききめ》がなさそうでございます。そこでおさらばと致しましょう。もう日も大分《だいぶ》暮れて来た。塒《ねぐら》へ帰ったら夜になろう。ご免下され、ご免下され」
 群集を分けて不思議な巫女はスタスタ北の方へ歩き出した。
 と、その時一人の若武士《わかざむらい》が先刻《さっ
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