い威厳がある。その眼は時々微笑する。嬰児のような愛らしさがある。高すぎる程高い鼻。男のそれのように、肉太である。口やや大きく唇薄く、そこから綻《ほころ》びる歯の白さ、象牙のような光がある。秀た額、角度《かど》立った頤、頬骨低く耳厚く、頸足《えりあし》長く肩丸く、身長《せい》の高さ五尺七八寸、囲繞《とりま》いた群集に抽出《ぬきんで》ている。垢付かぬ肌の清らかさは、手にも足にも充分現われ、神々しくさえ思われる。男性の体格に女性の美、それを加えた風采である。
 だが何という大胆なんだろう! 夕暮時とは云うものの、織田信長の管理している、京都の町の辻に立ち、その信長を攻撃し、その治世を詈《ののし》るとは!
 驚いているのは群集である。
 市女《いちめ》笠の女、指抜《さしぬき》の若者、武士、町人、公卿の子息、二十人近くも囲繞いていたが、いずれも茫然《ぼんやり》と口をあけ、息を詰めて聞き澄ましている。反対をする者もない、同意を表する者もない。
 不思議な巫女の放胆な言葉に、気を奪われているのである。
「唐寺の謎こそ奇怪である」巫女はまたもや云い出した。
「唐寺の謎を解《と》くものはないか! 唸《う
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