げろ!」
「だがねえ」と玄女は思量《しりょう》深く「私達の四ツ塚の隠家を、突き止められたら大変だよ、あの見幕なら家の中へ、きっと切り込んで来るからねえ」
「おっ、なるほど、それはそうだ! どうしたらよかろう、よい智慧はないか?」
「道を違えて走ろうよ、そうして途中でまく[#「まく」に傍点]としよう」
「そいつァよかった、是非まこ[#「まこ」に傍点]う」
 そこでにわかに玄女と猪右衛門は部下の香具師共と引き別かれ、北山の方へ走り出した。
 早くも見て取った右近丸と民弥は、見失っては一大事と、すぐにそっちへ道を取り、ヒタヒタヒタと追い迫る。
 逃げて行く玄女と猪右衛門と、追って行く民弥と右近丸、どっちも足弱連れである。一方まく[#「まく」に傍点]ことも出来なければ、一方まか[#「まか」に傍点]れもしなかった。
 四人いつの間にか町を出て、北野の方へ走っていた。二十人あまりの香具師の群は、とうに四方へ散ってしまい、四辺《あたり》には一つの姿さえ見えぬ。
 北野を過ぐれば大将軍、それを過ぐれば小北山、それを過ぐれば平野《ひらの》となる、それを過ぐれば衣笠山! そっちへドンドン走って行く。道は険
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