相当の金になるだろう。切ってはいけない、傷付けてもいけない、お捕らえお捕らえ捕らえるがいい!」
「合点々々それ捕らえろ!」
「ソレ引っ担げ引っ担げ!」
香具師の面々声掛け合わせ、ムラムラと民弥へ押し逼《せま》った。
仰天したのは民弥である。こんな伏勢《ふせぜい》があろうとは、夢にも想像しなかった。
「これは大変なことになった。……もうこうなっては仕方がない。血を流すのは厭だけれど、切り散らさなければならないだろう」
そこで一躍右へ飛び、ヒューッと懐刀を打ち振った。「ワッ」という悲鳴! 倒れる音! 香具師の一人切られたらしい。
しかし香具師共は二十人以上、しかもその上命知らず、兇暴の精神の持主である。一時サーッと退いたが、すぐまた民弥を取り巻いた。
「女の手並だ、知れたものだ、組み敷け組み敷け、取り抑えろ!」
棒を投げ付ける者もある。足を攫おうとするのである。縄を飛ばせる者もある。引っくく[#「くく」に傍点]ろうとするのである。
今は民弥も必死である。サーッと一躍左へ飛び、「エイ!」と掛声! 裂帛《れっぱく》の呼吸《いき》! 懐刀をまたもや一揮した。と同時に「ワッ」という悲鳴
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