込むと、右手を懐中《ふところ》へ捻じ込んだ。グッと引抜き振り冠った途端、頭上にあたって、キラキラと月光を刎ね返すものがあった。すなわち長目の懐刀である。すなわち玄女が懐刀を抜き、同じく頭上へ振り冠ったのである。
 と、玄女飛び込んだ。民弥の肩へズーンと一刀! 刀の切先を突き立てたのである。
 なんの民弥が突かれるものか、右へ流すとひっ[#「ひっ」に傍点]外《ぱず》しどんと飛び込んで体あたり[#「あたり」に傍点]! 流されたのでヨロヨロと泳いで前へ飛び出して来た玄女の胴へ喰らわせた。それが見事に決まったと見える、玄女は地上へ転がったが、金切声で喚き出した。
「さあさあみんな出ておくれよ!」
 するとどうだろう、声に応じ、家の陰やら木の陰やら、橋の下やら、土手の下から、二十人あまりの人影が、獲物々々を打ち振って、黒々として現われた。
 こういうこともあろうかと、予《あらかじ》め玄女が伏せて置いた、彼女の手下の香具師共らしい。
 グルグルと民弥を引っ包んだ。
「さあさあお前達力を合わせ、この娘を手取にするがいい」
 飛び起きた玄女は声を掛けた。「仲々綺麗な娘だよ、捕らえて人買へ売り込んだら、
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