お見せ下され!」
 すると民弥は赤面したが、小判と青差とを指さした。
「小判とそうして青差とに、人形は変わってしまいました」
「え?」と云ったものの右近丸には、何のことだか解らなかった。で直ぐに云い続けた。「帙入《ちついれ》の書物《ほん》に記されてあった、『くぐつ、てんせい、しとう、きようだ』……この謎語の意味解ってござる! 人形の眼を指の先で、強く打てという意味なのでござる。そうしたら逝《な》くなられた弁才坊殿が、苦心をされて調べあげた、唐寺の謎の研究材料、その有場所が解るのでござる! 奈良朝時代の貴女人形、あの人形に一切合財、秘密が籠っているのでござる。お見せ下され、貴女人形を!」
「まあ」と叫ぶと娘の民弥は仰天して立ち上ったが、見る見る顔色を蒼白くした。と、グッタリと牀几の上へ、腰を下ろすと喘ぎ出した。
「一足違い! 一足違い!」
「何?」とばかり右近丸。
「売り渡しましてございます」
「誰に※[#疑問符感嘆符、1−8−77]」と右近丸は胸をそらせた。
「今しがた来た古道具買に……」
「誠か※[#疑問符感嘆符、1−8−77]」と云ったが嗄声《かれごえ》である。「で、そやつ、どの方
前へ 次へ
全125ページ中54ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング