解るということだ。うむ、そういえば弁才坊殿には『この人形を大事にしろ』と民弥殿に云ったということだ。これで解った、すっかり解った! 奈良朝時代の貴女人形、あの人形の眼さえ打ったら、唐寺の謎の研究材料、その有り場所が解るのだ。……これはこうしてはいられない。すぐ引っ返して民弥殿と逢い、あの人形を調べてみよう!」
身を翻えすと右近丸は元来た方へ引っ返した。
ちょっとの躊躇も許されない。見得も外聞も構っていられぬ。で右近丸は走り出した。
が、どんなに急いでも、人形は売られた後である。人手に渡った後である。どうすることも出来ないだろう。
まさしくそれはそうであった。息せき切った右近丸が、民弥の屋敷へ駈け込んで、例の室で民弥と逢い、人形の行方を尋ねた時、民弥の口から右近丸は、残念な報告を聞かされたのである。
小判と青差を卓の上へ載せ、それに見入っていた娘の民弥は、右近丸が入って来るのを見ると、驚いたように云ったものである。
「まあそのあわただしい御様子は、どうなされたのでございます?」
それには碌々挨拶もせず、右近丸は室を見廻したが、「民弥殿! 民弥殿! 人形を! ……ちょっと人形を
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