高値で、譲っていただこうというのには、他に目的がありますからで。と云うのは人形のその中に、南蛮寺の謎を解き明かせた……オットドッコイ口が辷《すべ》った。ナニサナニサそうではない。つまり人形がよいからで。と云うのはそいつが喋舌《しゃべ》るからで。さようでございます。人形がね。何と喋舌るかと云いますと、『唐寺の謎は胎内の』オットいけねえ、軽はずみな、またまた口が辷ってしまった。アッハハハ馬鹿な話で、何のお嬢様、人形などが、何の物など云いましょう。へいへい物など云いませんとも、いえナニ物でも云いそうな程、さも活々とよく出来た、結構な人形でございますので、そこで高値にいただこうと、こういう次第なのでございますよ。では」と云うと猪右衛門は懐中《ふところ》へ腕を差し込んだが、ヒョイと抜き出すと掌《てのひら》の上に、小判を一枚のっけている。「まず小判、お取りなすって」もう一度懐中へ手を入れたが、取り出したのは青差である。「これは青差、お取りなすって」
「はいはい確かに受け取りました」
こう云うと民弥は窓越しに、小判と青差とを受け取ったが、引き返すと卓の側《そば》へ行き、卓に載せてある人形を、優しく
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