よ」
「アッハハ、つまらないかな」
苦く笑ったが猪右衛門はにわかに聞耳を引き立てた。
「どうやら帰って来たらしい」
なるほどその時|門《かど》の戸が、ギーッと開くような音がした。
「おや本当だね、帰ったようだよ」
二人同時に起き上った時、部屋へ駈け込んで来た少年がある。例の風船売の少年である。
「おお猿若か、どうだった?」先ず訊《たず》ねたのは猪右衛門。
「どうだもこうだもありゃッしないよ、うまくいったに相違ないさ」引き取ったのは玄女である。
「そうだろうね、え、猿若?」
「待ったり」と云うと猿若少年、走って来たための息切れだろう、苦しそうに二つ三つ大息を吐き、胸を叩いたがベッタリと坐った。それから喋舌《しゃべ》り出したものである。
「まずこうだ、聞きな聞きな、『秘密の鍵は第三の壁』『この人形を大事にしろ』弁才坊めが云っていたってものさ。ああそうだよ民弥にね。綺麗な綺麗な娘によ。全くあいつア別嬪だなあ。姐ごなんかよりゃアずっと[#「ずっと」に傍点]いいや。……ええとそれから風船だ、飛ばして置いて引いたってものさ、云う迄もないや、糸をだよ。するとパッチリ二つに割れ、パラパラこぼれた
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