がしたじゃアないか。するとコロリと斃《くたば》ったってものさ、鼠のような獣がな。恐ろしい恐ろしい恐ろしい魔法! 吉利支丹《きりしたん》の魔法に相違ない! こう最初には思ったが、直ぐその後で感付いたものさ、ナーニあいつ[#「あいつ」に傍点]は毒薬だとな。そこで盗もうと決めっちゃった[#「決めっちゃった」はママ]のさ。そうして隙をうかがって、うまうま盗んだというものさ」
「大成功、褒めてあげるよ」玄女は図々しく笑ったが、「でもそいつを風船へ仕込み、弁才坊殺しを巧んだのは、この妾だからね、威張ってもよかろう」
「いいともいいとも、威張るがいいや。だが成功不成功は、猿若が帰って見なけりゃアね」
「ナーニきっと成功だよ」
「うまく秘密を盗んだかしら?」
「あいつのことだよ、やりそこないはないさ」
 恐ろしい話を平然と、二人の男女は話している。
 と、猪右衛門はニヤニヤした。
「うまくいったら大金持になれる」
 すると玄女もニコツイたが、
「そうなった日には妾なんか、こんな商売はしていないよ」
「俺だってそうさ、香具師《やし》なんかしない。大きな御殿を押し建ててやるさ」
「つまらないことを云ってる
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