のは毒薬だ。と、ムーッと弁才坊……」
「そうかそうか、斃《くたば》ったのか?」こう訊いたのは猪右衛門。
「云うにゃ及ぶだ」と早熟《ませ》た口調、猿若はズンズン云い続ける。「で、窓から忍び込み……」
「偉い偉い、探したんだね」今度は玄女が褒めそやす。
「そうともそうとも探したのさ。目に付いたは人形だ」
「人形なんかどうでもいい、手に入れたかな、唐寺の謎?」
 猪右衛門短気に声をかける。
「急くな急くな」と猿若少年、例によって早熟た大人の口調、そいつで構わず云い続けた。
「驚いちゃアいけねえ、喋舌ったのさ。うんにゃうんにゃ呶鳴《どな》ったのさ。喚《わめ》いたと云った方が中《あた》っている。『唐寺の謎は胎内の……』――人間じゃアねえ人形だ! 人形がそう云って喚いたのさ。すると隣室《となり》から民弥さんの声だ。『どうなさいました、お父様』――つまりなんだな、目を覚ましたのさ。『ワーッ、いけねえ、化物だあ!』『いよいよいけねえ、逃げろ逃げろ!』――スタコラ逃げて来たってものさ。ああ驚いた、腹も空いた、一杯おくれよ、ねえご飯を」
「ご飯は上げるが唐寺の謎は?」訳がわからないと云うように、訊き返した
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