[#「ざっと」に傍点]その辺りの年格好、いやらしく仇《あだ》っぽい美人である。柄小さく、痩せぎすである。で顔なども細長い。棘のように険しくて高い鼻、小柄の刃先とでも云いたげな、鋭い光ある切長の眼、唇は薄く病的に赤く、髪を束ねて頸《うなじ》へ落とし、キュッと簪《かんざし》で止めてある。額は狭く富士形である。その顔色に至っては白さを通り越して寧ろ蒼く、これも広袖を纏《まと》っている。一見香具師の女親方、膝を崩してベッタリと、男の前に坐っている。
男の名は猪右衛門《ししえもん》、そうして女の名は玄女《げんじょ》である。
夫婦ではなくて、相棒だ。
家は玄女の家である。
「全く仕事の性質から云えば、かなりむずかしい[#「むずかしい」に傍点]仕事だからな、うまく仕遂《しと》げて来ればいいが、早く結果を聞きたいものさ」こう云ったのは猪右衛門、「まごまごすると夜が明ける。宵の口から出て行って、いまだに帰って来ないなんて、どうもいつも[#「いつも」に傍点]のあいつらしくないよ。やりそこなって恥かしくなって、どこかへ逃げたんじゃアあるまいかな」不安だという様子である。
「そんな心配はご無用さ」
玄
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