、こうも手順よく探すのに、目つからないとは箆棒だよ。……何だこいつあ? 人形か?」
 部屋の片隅の卓の上に、二尺あまりの身長《たけ》を持った、人形が一つ置いてある。奈良朝時代の貴女風俗、そういう風俗をした人形である。
 ヒョイと取り上げた風船売の少年、ちょっと小首を傾げたが、そこはやっぱり子供である、小声で節を付けて唄い出した。
「可愛い可愛い人形さん、綺麗な綺麗な人形さん、物を仰有《おっしゃ》い、物を仰有い、貴郎《あなた》に焦れて居りまする。――などと喋舌《しゃべ》ると面白いんだがな。喋舌らないんだからつまらない[#「つまらない」に傍点]よ。もっとも人形が喋舌り出したら、俺ら仰天して逃げ出すだろうが。……が、待てよ」
 と考え込んだ。
「そうだ先刻《さっき》がた弁才坊めが、こんなことを民弥へ云っていたっけ『この人形を大事にしろ』……とすると何か人形に、秘密があるのじゃアあるまいかな? もしも秘密があるとすると、あの秘密に相違ない」ここでまたもや考え込んだ。
「そうだそうだひょっとかするとこの人形のどの辺りかに、あいつが隠してあるのかもしれない。あの素晴らしい秘密の物が」
 で、少年は
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