例によって敏捷猿のようである。足音一つ立てようとはしない。窓から射し込む月の光で、部屋中薄蒼く暈《ぼ》かされている。
「さあてどの辺りにあるんだろう? 手っ取り早く探さなけりゃアならねえ」こんな事を呟いている。「隣部屋に寝ている民弥めに、眼を覚まされては大変だ」こんなことも呟いている。
 部屋の一所に書棚がある。で、書棚を探し出した。部屋の一所に机がある。で、机を探し出した。壁に図面が張り付けてある。それを素早く探り出した。部屋の一所に測量機がある。その周囲《まわり》を探し出した。部屋の一所に鑿孔機《せんこうき》がある。それを両手で探り出した。
「ないなあ、ないなあ、どうしたんだろう? どこに隠してあるんだろう? こんなに探しても目つからないなんて、どう考えたって箆棒だよ。もっとも途法もなく大事なもので、それこそうんとこさ[#「うんとこさ」に傍点]値打のあるもので、いろいろの人が狙っているもので、そいつを一つさえ手に入れたら、大金持になれるんだそうだ。だからチョロッカにその辺りに、うっちゃって[#「うっちゃって」に傍点]あろうとは思われないが、盗みにかけちゃ俺らは天才、その俺様が克明に
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