ろう? どんな役目をするために、風船は部屋の中へ入り込んだのだろう?
だがそいつ[#「そいつ」に傍点]は風船が、弁才坊の真上まで、ユラユラユラユラとやって来た時、ハッキリ了解することが出来た。
風船がパッと二つに割れ、闇の部屋の中へバラバラと、白粉《おしろい》のような粉を蒔き、それが寝ている弁才坊の顔へ、音もなく一面に降りかかるや否や、ムーッと弁才坊呻き声を上げ、両手を延ばすと苦しそうに、胸の辺りを掻き毟ったが、それもほんの僅かな間で、そのまま動かなくなったのである。
と、どうやら風船には、糸でも付けてあったらしい、そうしてそれが手繰《たぐ》られたらしい、窓から戸外《そと》へ出てしまった。
後はひっそりと静かである。
コトンと窓も閉ざされてしまった。
春の夜風が出たのだろう、花木の揺れる幽かな音が、サラサラサラサラと聞こえてくる。
弁才坊は寝たままである。弁才坊は微動さえしない。
だんだん夜が更けて行く。
とまたコトンと窓が開き、一本子供の腕が出た。続いて子供の顔が出た。風船売の少年である。今まで窓の外に立ち、様子をうかがっていたらしい。
と、窓から飛び込んで来た。
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