出来たのではございませんか」
「それはそうだよ」と云ったものの、やはり弁才坊は不満らしい。だがにわかに態度を変えた。
「どうやら宵も過ぎたらしい。さあさあ民弥さん寝るとしよう」剽軽の態度に帰ったのである。
「かしこまりました、弁才坊さん、おねんねすることに致しましょう」
二人窓から引っ込んだが、つづいて雨戸が閉ざされた。後はシーンと静かである。
とガサガサと庭木が揺れ、現われたのは先刻《さっき》の少年、「これからが俺の本役《ほんやく》さ」とまたもや窓へ近よったが、手を延ばすと窓を開け、そこから一つの風船を、家内《やない》へ飛ばせたものである。
6
その風船はユラユラと部屋の中へ入って行った。
さてその部屋の中であるが、弁才坊ただ一人、床を延べて伏せっていた。
うとうと眠っているらしい。部屋の中には燈火《ともしび》がない。で、闇ばかりが領している。その闇の部屋をユラユラと、白い風船が漂っている。スーッと天井まで上ったかと思うと、スーッと下へ下って来る。妖怪《もののけ》のようにも思われるし、肉体から脱け出た魂のようでもある。
しかし少年は何のために、そんな風船を飛ばせたのだ
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