窓口へ行き、仔細に人形を調べ出した。人形は随分貫目がある。少年の手には持ち重りがする。顔は非常に美しい。眼などまるっきり[#「まるっきり」に傍点]活きているようだ。紅を塗られた口からは、今にも言葉が出そうである。着ている衣裳も高価なもので、唐来もののように思われる。
だがこれといって変わった所もない、単純な人形に過ぎなかった。
「何だちっとも[#「ちっとも」に傍点]面白くもない、ただのありきたり[#「ありきたり」に傍点]の人形だアね」
不平らしく呟いた風船売の少年、卓の上へ人形を返そうとした時、驚くべき一つの事件が起こった。
7
と云うのは突然人形が、鋭い高い金属性の声で、次のようにハッキリ叫んだのである。
「南蛮寺の謎は胎内の……」
それだけであった! たった一声!
よし一声であろうとも、確かに人形は叫んだのである。しかも驚くべき大きな声で。
風船売の少年が、どんなに吃驚仰天したか、想像に余ると云ってよい。自分が泥棒だということも、忍び込んだ身だということも、何も彼も忘れて声を上げた。
「ワーッ、いけねえ、化物だあ!」
この結果は悪かった。隣部屋に寝ていた娘の民弥《
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