云い出した。
「よし」と云うと一|刎《は》ね刎ね、木間へスポリと飛び込んだかと思うと、苔蒸した石を抱えて来た。
「こいつを足場にしてやろう」
 そっと窓下へ石を置いたが、やがてその上へヒョイと乗ると、背延びをして小穴から覗き出した。
「ワーッ、有難《ありがて》え、よく見えらあ」
 それから熱心に覗き出した。
「ワーッ、姐ごめ、嘘は云わなかった。ほんとにほんとに弁才坊め、いろいろの機械を持ってやがる……ははああいつが設計図、ははああいつが測量機、ははああいつが鑿孔機《せんこうき》、うんとこさ[#「うんとこさ」に傍点]書籍《ほん》も持っていやがる……オヤオヤオヤ人形もあらあ、やアいい加減|爺《じじい》の癖に、あんな人形をいじって[#「いじって」に傍点]いやがる。待てよ待てよ、そうじゃアねえ。ありゃア娘の人形なんだろう。だって娘だっていい年じゃアないか。そうそう確か十八のはずだ。ええとそうして民弥と云ったっけ……おかしいなあ、おかしいや、弁才坊と民弥とが、人形を挿《はさ》んで話し込んでいるぜ。民弥め別嬪だなあ。家の姐ごよりずっと[#「ずっと」に傍点]綺麗だ。俺《おい》らの姉さんならいいんだけ
前へ 次へ
全125ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング