れど、そうでないんだからつまんねえ[#「つまんねえ」に傍点]。俺らの嫁さんにならねえかな。あっちの方が年上だから、どうもこいつ[#「こいつ」に傍点]も駄目らしい……え、何だって? 何か云ってるぜ! ……「この人形を大事にしろ」……ウフ、何でえ面白くもねえ、つまらねえ事を云っていやがる……え何だって何か云ってるぜ! ……『秘密の鍵は第三の壁』……何だか些少《ちっと》も解《わか》らねえ……何でもいいや、一切合切、みんな姐ごに話してやろう」
こんなことを口の中で呟きながら、風船売の少年は、障子の穴から覗いている。
日がだんだん暮れてきた。南蛮寺の鐘も今は止み、合唱の声も止んでしまった。
庭木の陰が次第に濃くなり、夜が間近く迫ってきた。
と、突然家の内から、「これ、誰だ。覗いているのは!」弁才坊の声がした。
「ワッ、いけねえ、目つかっちゃった」
石から飛び下りた風船売の少年、庭木の陰へ隠れたが、その素早さというものは、人間よりも猿に近い。
と内から窓があき、顔を出したは弁才坊で、グルグルと庭を見廻したが、神経質の眼付、ムッと結んだ口、道化た俤など少しもない。眼を付けたは窓下の石!
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