茶でも」
「お茶もお合憎様でございます。久しく切れて居りますので」
「おやおやそいつは困りました。では白湯《さゆ》なりと戴きましょう」
「差し上げたくはございますが、お湯を沸かす焚物《たきもの》がございません」民弥はやっぱり相手にしない。
これにはどうやら弁才坊も少しばかり吃驚《びっくり》したらしい。
「ははあ焚物もございませんので」
「明日の朝いただく御飯さえ、実はないのでございます」
「随分貧乏でございますな」
「今に始まりは致しません。昔から貧乏でございます」
「これはいかにも御尤《ごもっとも》、昔から貧乏でございます」こうは云ったが弁才坊は意味ありそうに云い続けた。「だが大丈夫でございますよ。苦の後には楽が来る、明日《あした》にでもなると百万両が、ころげ込むかも知れません」
「はいはい左様でございますとも。百万両は愚かのこと、大名になれるかも知れません」
「そうなった日の暁《あかつき》には、この弁才坊城を築き、兵を財《たくわ》え武器を調《ととの》え威張って威張って威張ります」
「そうなった日の暁には、この民弥さんも輿《こし》に乗り、多くの侍女を従えて、都|大路《おおじ》を打た
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