たいこもち》)と、十八になる娘の民弥《たみや》、二人の住んでいる屋敷である。
今日も二人は縁《えん》に腰かけ、さも仲よく話している。
だが本当に多門兵衛という老人、そんな卑しい弁才坊だろうか?
どうもそうとは思われない。深い智識を貯えたような、聡明で深味のあるその眼付、高貴の血統を暗示するような真直ぐで、正しい高い鼻、錠を下ろしたような緊張《ひきし》まった口、その豊かな垂頬から云っても、卑しい身分とは思われない。民弥の方もそうである。その大量な艶のよい髪、二重瞳の切長の眼、彫刻に見るような端麗な鼻梁、大きくもなければ小さくもない、充分調和のよい受口めいた口、結んでいても開いていても、無邪気な微笑が漂よっている。身長《せい》も高く肉附もよく、高尚な健康美に充たされている。行儀作法を備えているとともに、武術の心得もあるらしく、その「動き」にも無駄がない。
親子であることには疑いない。万事二人はよく似ている。そうして二人ながら貧しいとみえ、粗末な衣裳を着ているが、しかし大変清らかである。
4
「ねえ民弥さん民弥さん、よい天気でございますねえ」
こう云ったのは弁才坊で、自分の娘を
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