うもいけない。だんだん足音が近くなって来る」
民弥は無言で走って行く。民弥には全く不思議であった。
何が何だか解《わか》らなかった。猿若というこの小供が、何故自分を助けたのか? そうしてどうしてこの小供が、自分の名などを知っているのか? いやいや決してそればかりではない、逝くなった父の弁才坊のことや、そうして人形のことなどを、どうして口へ出すのだろう? ――何も彼も民弥には解らなかった。だがただ一つ解っていることがあった。それは自分のあぶない所を、助けてくれたということである。で民弥は心から、有難く思ってはいるのであったが、口へ出しては云わなかった。と云うのはうっかり声を出して、そのため呼吸《いき》でも乱れたら、そのまま倒れてしまうだろうと――こういう不安があったからである。
で、黙ったままひた走る。
だが精力には限りがある。だんだん二人は疲労《つかれ》てきた。足の運びも遅くなり、胸が苦しく呼吸が逸《はず》む。
「ああもう妾《わたし》は走れない」
民弥がこう云って足を止めた時、人買の追手が追い逼った。
すぐに民弥と猿若とを、グルグルと包囲したのである。
「これ」と喚《わめ》
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