所で逢った。実はな、お前さまに逢おうと思うて、わざわざ山から下ったものでござるよ、……と云うのは他でもない、南蛮寺の謎につきましてな、お訊《たず》ねしたいことがあるからでござるよ。……がそれは後でお訊ねするとして、大丈夫でござるお助けいたす」
ここで浮木は庭師達を見たが、「あいや方々お聞きの通り、人買共が民弥殿を、誘拐《かどわか》そうと致したそうな。そうでなくてさえ世を乱す悪者、用捨はいらない討って取りなされ!」
「心得てござる」と答えたのは、庭師の一人の銅兵衛《どうべえ》である。
「さあ方々」とその銅兵衛は味方の三人を見廻したが、「一度に抜き連れ、叩っ切りましょうぞ!」
声に応じて四本の大刀[#「大刀」はママ]がキラキラと松火に反射した。四人腰の物を抜いたのである。
庭師の扮装はしているが、決して尋常な庭師ではなく、いずれも名ある武夫《もののふ》が何か世を忍ぶ理由《わけ》があって、そんな姿にやつしているのであろう。構え込んだ態度に隙がなく、素晴らしい手練を示している。
だが人買の連中には、どうやらそんなことは解《わか》らないらしい。民弥の後を追っかけて、十人余り走って来たが、「これ汝《おのれ》ら何者だ、娘を返せ、さあ渡せ!」呶鳴ったは親方の桐兵衛である。
嘲笑ったは銅兵衛で、「黙れ! 鼠賊! 何を云うか! 民弥殿は我らが守護いたす、金輪際《こんりんざい》汝らに渡すことではない、取りたくば腕ずくで取って見ろ! 見れば人買、浮世の毒虫! 根絶やししてくれよう、観念しろ」
ヌッと踏み出した気塊というものは、凄じい迄に高かった。
ギョッとはしたが人買の桐兵衛、こいつも甲斐撫での悪党ではなかった。後へ退がると引き抜いた。「やあ手前達邪魔が入った、邪魔な奴から退治《やっ》つけて、民弥をこっちへ取り返せ! 多少の腕はあるらしいが、人数は四人だ、知れたものだ、おっ取り囲んで鏖殺《みなごろし》にしろ!」
手下に向かって声をかけた。
「云うにゃ及ぶだ」と人買共は一斉に抜き連れ飛びかかった。
「命知らずめ!」と一喝くれ、真っ先立って飛び込んで来た、人買の一人を大袈裟に、一刀にぶっ放した庭師の銅兵衛、「幾人でも来い、さあさあ来い! 一度にかかれ! さあさあかかれ!」
血刀を揮って切込んだ。続いて三人が躍り込む。それを人買がおっ取り巻く。キラキラ! 太刀だ! 月光に映じ、
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