がな」
「どうぞお聞かせくださいまし」お色はズルズルと膝を進めた。「先生お願いでございます」
「医は肉体の病《やまい》を癒《なお》し、易は精神の病を癒す。いわばどっち[#「どっち」に傍点]も仁術だ。わし[#「わし」に傍点]の力で出来るだけの事は骨を折ってしてあげよう。その人を救う唯一の道とは、その人と一番親しい人がさらに他の人に正直に事情を話して救いを乞う時、事情を話されたその人が、事件を解決して救うというのだ。易の面《おもて》に現われている。詳しく分解して話してもよいが専門の言葉で説明しても、お前さんには解るまい。ところでその人と親しい人とは、今の場合お前さんだ。さらに他の人とは誰のことか。これはどうやらわし[#「わし」に傍点]らしい。そこでお前さんが正直に今度の事情をわし[#「わし」に傍点]に話したら、あるいはこのわし[#「わし」に傍点]がその人を、救い出すことが出来るかも知れない。もちろん確実《たしか》とはいわれないがな」
「はい有難う存じます。それではお話しいたします。どうぞお聞きくださいまし。あの妾《わたし》は浅草の、銀杏《いちょう》茶屋のお色でございます」
 ――それから田
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