い立てかたは、一度も経験したことがなかった。「さすがは名題の加藤先生。ああこの易はきっと中る」お色は突嗟に信じてしまった。
左伝次は筮竹を額へあてた。パチパチパチパチパチ。パチパチパチパチ。力をこめて刎《は》ね上げた。と、算木へ手を掛けた。カタカタと算木が返された。ホーッと一つ呼吸《いき》をすると、ザラザラと筮竹を筒の中へ入れた。それから算木を睨み付けた。
お色は思わず呼吸を呑んだ。
死中ただ一活路
「おお、お娘ご、これはいけない」気の毒そうに左伝次はいった。
「あのそれではそのお方の、お心持ちが変わったので?」お色はブルブルと顫《ふる》え出した。
「いや心は変わっていない。……もっと大変なことがある」
「え、そうして大変とは?」
「死地にはいっておられるのだ」
「まあ」と叫ぶとフラフラと立ったが、すぐベッタリと坐ってしまった。
「では、お命があぶないので?」
「うむ」と左伝次は顔を曇らせ、「しかもそれが冤罪《えんざい》でな」
「どこにおられるのでございましょう?」
「さあ、そこまでは解らない」左伝次はお色を刺すように見た。「だがただ一つ道がある。そうだその人を救う道
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