銅銭会事変
国枝史郎

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)田沼主殿頭《たぬまとのものかみ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)詩人|其角《きかく》の句

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》った
−−

    女から切り出された別れ話

 天明六年のことであった。老中筆頭は田沼主殿頭《たぬまとのものかみ》、横暴をきわめたものであった。時世は全く廃頽期《はいたいき》に属し、下剋上の悪風潮が、あらゆる階級を毒していた。賄賂請託《わいろせいたく》が横行し、物価が非常に高かった。武士も町人も奢侈《おごり》に耽った。初鰹《はつがつお》一尾に一両を投じた。上野山下、浅草境内、両国広小路、芝の久保町、こういう盛り場が繁昌した。吉原、品川、千住《こつ》、新宿、こういう悪所が繋昌した。で悪人が跋扈《ばっこ》した。
 その悪人の物語。――
 梅が散り桜が咲いた。江戸は紅霞《こうか》に埋ずもれてしまった。鐘は上
次へ
全82ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング