横へ開いた。「これは」と弓之助は吃驚《びっくり》した。「いやこれはありそうなことだ。泥棒の巣窟《すみか》へ泥棒が忍び込む気遣いはないからな、それで用心しないのだろう」彼は中へはいって行った。玄関の間は六畳らしく燈火《ともしび》がないので暗かった。隣室と仕切った襖があった。その襖へ体を付けた。それからソロソロと引き開けた。その部屋もやはり暗かった。十畳あまりの部屋らしかった。隣室と仕切った襖があった。その襖をソロソロと開けた。燈火《ともしび》がなくて暗かった。全体が手広い屋敷らしかった。しかも人影は皆無であった。どの部屋にも燈火がなかった。一つの部屋の障子を開けた。そこに一筋の廻廊があった。その突きあたりに別軒《べつむね》[#ルビの「べつむね」は底本では「べねむね」]があった。離れ座敷に相違ない。廻廊伝いにそっちへ行った。雨戸がピッタリ締まっていた。その雨戸をそっと開けた。仄明《ほのあか》るい十畳の部屋があった。隣り部屋から漏れる燈が部屋を明るくしているのであった。弓之助はその部屋へはいった。隣り部屋の様子を窺った。やはり誰もいないらしい。思い切って襖を開けた。はたして人はいなかった。机
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