うた》っているうちに、それよこせ[#「よこせ」に傍点]やれよこせ[#「よこせ」に傍点]、洗いざらい持って行かれる。ヘッヘッヘッヘッヘッこれはこれは、いつの間に貧乏になったんだろう? などと驚いても追っ付かない。だから決して笑ってはいけない。いつもうんと[#「うんと」に傍点]怒っているがいい。……だがこいつは勇士の態度だ。利口者には別の道がある。行儀作法を覚えることよ。お辞儀を上手にすることよ。お太鼓をうまく叩くことよ。お手拍子喝采を習うことよ。それで権勢家に取り入るのよ。そうして重用されるのよ。さてそれからジワジワと、自分の考えは権勢家に伝え、その権勢家の力を藉《か》りて、もって実行に現わすのよ」
また感慨に耽り出した。
舁ぎ込まれた一丁の駕籠
と、その時一丁の駕籠が、森の中へ担ぎ込まれた。
「こんな深夜にこんな所へ、担ぎ込まれるとは不思議千万、何か様子があるらしい」弓之助は社の背後《うしろ》へ隠れた。
「おお先棒もうよかろう」「おっと合点、さあ下ろせ」
駕舁きはトンと駕籠を下ろした。それから額の汗を拭いた。それからヒソヒソと囁《ささや》き合った。
「おい姐《ねえ》
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