#「あやつっ」に傍点]ているある大きな人物が……」
「これ」と甲斐守は手で抑えた。「お前、田沼殿を疑がっているね」
「勢いそうなるではございませんか」
「が、ここに不思議なことには、今度の事件では田沼殿は、心の底から周章《あわ》てていられる」
「さては芝居がお上手と見える」
「いやおれの奉行眼から見ても、殿の周章《あわ》て方は本物だ。そこがおれには腑に落ちないのだ。……さて、よい物が手に入った。銅銭会縁起録、早速これから御殿へまいり、老中方にお眼に掛けよう」
叔父の家を出た弓之助は、寂然《しん》と更けた深夜の江戸を屋敷の方へ帰って行った。考えざるを得なかった。
「田沼の所業に相違ない。将軍家に疎《うと》んぜられた。そこで将軍家をおび[#「おび」に傍点]き出し、幽囚したか殺したか、どうかしたに相違ない。悪い奴だ、不忠者め! その上俺の情婦《おんな》を取り、うまいことをしやがった。
公《おおやけ》の讐《あだ》、私の敵《あだ》、どうかしてとっちめ[#「とっちめ」に傍点]てやりたいものだ。だが、どうにも証拠がない。是非とも証拠を握らなければならない。銅銭会とは何物だろう? 支那の結社だとい
前へ
次へ
全82ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング