槐門《かいもん》周章。丙《ひのえ》より壬《みずのえ》、一所集合、牙城を屠《ほふ》る。急々如律令《きゅうきゅうにょりつれい》。――つまりこういう意味でござった。甲斐守殿へお伝えくだされ」
「して、茶椀陣とおっしゃるは?」
「うむ、茶椀陣か、それはこうだ。銅銭会の会員が、茶椀と土瓶の位置の変化で、互いの意思を伝える法」
「火急の場合、これでご免」
「謹慎の身の上、お見送り致さぬ」
で弓之助は下屋敷を辞した。門を潜ると駕籠へ乗った。
駕籠は一散に宙を飛んだ。
間もなく甲斐守の屋敷へ着いた。門を潜り、玄関を抜け、叔父の部屋へ走り込んだ。
依然|肩衣《かたぎぬ》を着けたまま、甲斐守は坐っていた。
「おお弓之助か、どうであった?」
「まずこれを」と書物《かきもの》を出した。
「うむ、銅銭会縁起録」
「他に伝言《ことづて》でございます」
「うむ、そうか、どんなことだ?」
「先ほど、私お話し致しました、上野山下一葉茶屋で、一人の町人の行なった茶椀芸についてでございますが、あれは銅銭会の茶椀陣と申し、茶椀の変化によりまして、会員同士互いの意思を、伝え合うところの方法だそうで、あの時の茶椀陣の意味
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