はといえば、貴人横奪、槐門周章。丙《ひのえ》より壬《みずのえ》、一所集合、牙城を屠る。急々如律令。……かような由にございます」
「ううむそうか、よく解った」甲斐守はじっと考え込んだ。「……貴人横奪? 貴人横奪? これはこの通りだ間違いない。いかにも貴人が横奪された。槐門周章? 槐門周章? 槐門というのは宰相の別名、当今の宰相は田沼殿、いかにもさよう田沼殿は、非常に周章《あわ》てておいでになる。だからこれにも間違いはない。丙より壬? 丙より壬? これがちょっと解らない」甲斐守は眼を閉じた。すると弓之助が何気なくいった。
「日柄のことではございませんかな。たしか一昨日《おとつい》が丙の日で」
将軍家治誘拐さる
「おっ、なるほど、そうかもしれない。うむ、よいことを教えてくれた。いかにもこれは日柄のことだ丙から壬というからには、丙から数えて壬の日まで、すなわち七日間という意味だ。一所集合? 一所集合? これは読んで字のごとく某所へ集まれということだろう? 牙城を屠る? 牙城を屠る? 敵の本陣をつくという意味だ。急々如律令は添え言葉、たいして意味はないらしい……さてこれで字義は解っ
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