うか、それは偉い」
「偉い女でございますよ」
「いやいや偉いのはお前の方だ」
「叔父さん冷《ひや》かしちゃあいけません」
「冷かすものか、本当のことだ。遊びもそこまで行かなければ、堂に入ったとはいわれない」
「振られて帰る果報者。叔父さん、こいつをいっているんですね」
「いやいやそれとは意味が異う。男へ引導を渡すような女だ、いずれ鉄火に相違あるまい。そういう女をともかくも、占めたということは偉いではないか」
「これはどうも恐れ入りました」弓之助は変に気味悪くなった。「この叔父貴変梃だぜ。金仏のような風采でいてそれで消息には通じている。ははあ昔は遊んだな」
その時甲斐守は一膝進めた。
「そこでお前に訊くことがある。盛り場ないし悪所などで近ごろ何か変わった噂を耳にしたことはなかったかな?」
「さあ、変わった噂というと?」
「銅銭会というようなことを」
「あっ、それなら聞きました。いや現在見たんです」
「ふうむ、そうか、知っているのか。……ひとつそいつを話してくれ」ピタリと甲斐守は坐り直した。
そこで弓之助は昨日、上野山下一葉茶屋で、怪しい振る舞いをした町人のことと、老武士のこととを物語
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