ます。はい、さようでございますな。いくらかは道楽も致しますが、決して親や兄弟へは、迷惑などは掛けないつもりで」
「いやいや意見をするのではない。若いうちは遊ぶもよかろう。親父のようにかたくな[#「かたくな」に傍点]では、ろくな出世は出来ないからな。どうだ情婦《おんな》でも出来ているか」
「おやおやこいつは変梃《へんてこ》だぞ。妙な風向きになったものだ。叔父貴としては珍らしい。ははあわかった、手段だな。いわせて置いてとっちめ[#「とっちめ」に傍点]る。ううんこいつに相違ない。町奉行なんか叔父に持つと、油断も隙も出来やあしない。甥に対してさえお白洲式の、訊問法を採るのだからな。構うものか、逆捻《さかねじ》を食わせろ」そこで弓之助はニヤニヤした。
「実はね、叔父さん、出来ましたので。茶汲み女ではありますが、どうしてどうして一枚絵にさえ出た、素晴らしい別嬪でございますよ。だがね、叔父さん、つい最近、縁を切られてしまいました」
「切られたというのは変ではないか、お前が縁を切ったんだろう。冗《むだ》なことをしたものだ」
「いいえそうじゃありません。女から引導《いんどう》を渡されたんで」
「ほほうそ
前へ 次へ
全82ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング