十呂盤弾きをするのだと。
 今も熱心に弾いている。
「二、一|天作《てんさく》の五、二|進《しん》が一|進《しん》、ええと三、一、三十の一……加賀屋親子の行方不明、佐賀町河岸での人殺し、そこへ迎えに出た加賀屋の提燈……これには連絡がなければならない。……宇和島という若侍……それに泊まった柏屋という旅籠? ……柏屋、柏屋、柏屋だな?」
 どうにも考えがまとまらないらしい。
「加賀屋から迎えに出た以上は、本家か寮かへ連れて行かなければ、本当のやり口とは云われない。……十から八引く六残る。冗談云うなよ、二が残らあ」
 珠算《たまざん》をしながら考えている。
 痩せぎすでそうして小造りであり、眼が窪んで光が強く、どっちかというと醜男である。だが決して一見した所、人に悪感を与えるような、そんな人相はしていない。
「十から八引く二が残る。と云うのが浮世の定法だが、本当の浮世はそうでない。八が残ったり四が残ったり、もう一つこいつ[#「こいつ」に傍点]が酷《ひど》いことになると、十一なんかが残ったりする」
 などと警句を云う男であった。
 珠を払うとヒョイと立った。
「本筋から手繰って行くことにしよう
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