とそれからおまんま[#「おまんま」に傍点]をね」
居間へ引っ返した丁寧松はポカンとした顔で考え込んだが、やがて長火鉢のひきだし[#「ひきだし」に傍点]を開けると、ちいさい十呂盤《そろばん》を取り出した。
パチ、パチ、パチと弾き出した。
岡引の松吉は三十五歳、働き盛りで男盛り、当時有名な腕っコキで、十人以上の乾兒《こぶん》もあったが、どうしたものか独身であった。そうして彼は変人でもあった。起居も動作も言葉つきも、岡引どころの騒ぎではなく、旦那衆のように丁寧なのである。乾兒や乞食に対してさえ、丁寧な言葉を使うのである。
丁寧松の由縁《いわれ》である。
ところで彼は捕り物にかけては、独特の腕を持っていた。武器はと云えば十呂盤と十手で……
十手が武器なのは当然だが、十呂盤が武器とはどういうのだろう?
それは誰にも解らなかった。
とはいえ、彼は事件にぶつかると、きっと十呂盤を取り出して、掛けたり引いたりするのであった。
こじつけ[#「こじつけ」に傍点]ればこんなように云うことは出来る――すべて数学というものは、人の心を緻密にし人の心をおちつかせる。そこで心をおちつかせるために、
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