見た。それから大学へ眼をやった。
「そうかそうか、恋仲か! 恋をしようとしているのか! だがねえ」とまたもや扇女を見た。
「用心が大事でございますよ。迂闊に恋などなさいますな。凄いお方でございます。この大学という方は! もし迂闊にこの人と恋仲などになりましたら、妾《わたし》のようにされましょう。廃人にね! 廃人にね! ……」
ヒョロヒョロ、ヒョロヒョロと歩き出した。針金細工の人形かしら? あまりにも痩せているではないか! そうしてヒョロヒョロと歩く毎に、どうしてあんなにも顫えるのだろう?
燈籠《とうろう》の火に照らされて、阿片の吹管が反射する。それを握っている手の指が、あたかも鈎のように曲がっている。
と、だる[#「だる」に傍点]そうに振り返り、ノロノロと片手を上げ、それで大学を指さしたが、
「ね、妾《わたし》の恋男さ! そうさ妾の大学さんさ! 取っちゃア不可《いけ》ないよ、この人をね!」
それから自分を指さした。
「教えてあげよう、妾の名をね! 『阿片食い』のお妻だよ!」
またヒョロヒョロと歩き出し、部屋をグルグル廻り出した。
同じこの夜のことである。
「一体どうしたの
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