だよ』……よこせ! よこせ! よこせ! 呉れない! 呉れない! 呉れない! 呉れない! 寄って集《たか》ってたくさんの人が、虐むからでございます。そこで、生きながら誰も彼も、死骸になるのでございます。……死骸はいやらしゅうございます。見ない方がよろしゅうございます。死骸を見まいと思ったら、阿片をお喫いなさいまし。……お前は誰だい!」
とその女は、よろめく足を踏み締めると、扇女の前へ突立った。
支那風に髪を分けており、髪に包まれて顔があり、その顔は仮面と云った方が、似合うように思われた。と云うのは支那製の白粉《おしろい》で、部厚く一面に、塗りくろめ、書き眉をし、口紅をつけ、頬紅を注しているからである。特色的なのは眼であろう。眼窩が深く落ち窪み、暗い深い穴のように見える。
楔《くさび》形に削ったのだろうか? こう思われる程ゲッソリと、頬が頤へかけて落ちている。
上着の模様は唐草で、襟と袖とに銀の糸で、細く刺繍《ぬいとり》を施してある。紫色の袴の裾を洩れ、天鵞絨《ビロード》に銀糸で鳥獣を繍った、小さな沓《くつ》も見えている。
「奇麗な御婦人、別嬪さん!」
云いながら睨むように扇女を
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