!」
「阿片をおのみなさいまし」
茫然としてお妻が云った。
「何も彼も忘れてしまいましょう。美しい夢ばかり見られます。……あなたはたあれ[#「たあれ」に傍点]!」と恍惚《うっとり》とする。
「どっちみちお助けしなければならない!」
こう思ったに相違ない。つと進むと腕を延ばし、乞食はお妻をひっ抱えた。
「助けて下さいよ! 助て下さいよ! 誰か妾《わたし》を連れて行きます!」
行くまいとお妻はもがく[#「もがく」に傍点]のである。
だが乞食の上州は、いわゆる有無を言わせないという態度で、お妻を抱えた手をゆるめず、部屋から外へ飛び出そうとした。
そこへ飛び込んで来た人間がある。
「やはり貴殿か!」
――と大学であった。
「忘恩の徒よ! 反逆者よ!」
竹光でこそあれ凄い利器、腕も充分冴えている、大学の胸を貫いた。
こうして大学は斃れたが、突きさした竹光を突きさしたまま、お妻をかかえて、風のように、馳せ去った乞食の上州は、どこへ行ったものかその時以来、二度と姿を現わさなかった。しかし竹光の柄の上に一連の文字が刻《ほ》ってあったので、その身分を知ることが出来た。
支那には「白蓮会
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