かり怪訝そうに訊いた。
「騎士《ナイト》よ、騎士《ナイト》よ、ハッハッハッ、こんな言葉を覚えましたので」
「綺麗な言葉でございますこと」
「その癖中身はからっぽ[#「からっぽ」に傍点]で」
「どういう意味なのでございましょう?」
「恋人の前へ跪坐《ひざまず》き、恋人のお手々を頂戴し、そのあげくお手々をふんだくられ[#「ふんだくられ」に傍点]、ひどい目に会わされるさむらい[#「さむらい」に傍点]の、毛唐語だそうでございますよ。云ってみればちょうど拙者のようなもので」
「可哀そうな可哀そうな可哀そうな騎士《ナイト》!」
「可哀そうな可哀そうな可哀そうな拙者!」
「でも、妾なら裏切りません」
「また拙者にしてからが、あなたの前では跪坐《ひざまず》きません」
「好きでございます、そういうお方こそ。……女を認めないで虐めるお方! 本当の男でございます」
二人の旅はつづいて行く。
ふと小一郎は気になった。
「ご両親はご承知でございましょうな? あなたが拙者と住むことを?」
「妾、勘定に入れませんでした」
「ああ」と思わず小一郎は、嘆息の声を筒抜かせた。それから口の中で呟いた。「何も彼も一切反対
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