と云っても風変りの娘さ。こんな娘と所帯を持ち、町家住居をやらかしたら、とんだ面白い日が暮らせるかもしれない」
そうはいっても小一郎には、桔梗様のことが忘れられなかった。「あの桔梗様の美しさは、いわば類《たぐい》稀れなるものだ。君江などとは比べものにはならない」とはいえ今に至っては、どうすることも出来なかった。「それにしてもどうして桔梗様は、この俺の恋を入れながら、この俺と一緒に来ようとはせず、昆虫館などへ残ったのだろう?」これがどうにも不平であった。「恋人の愛より親の愛の方が、魅力があったというものかな?」そうとしかとるより仕方なかった。「若い娘というものは、親の愛なんか蹴飛ばしても、愛人の方へ来るものだと、俺は今日まで思っていたが、どうもね、今度は失敗したよ」それが不服でならなかった。
にわかに小一郎は馬の上で、ク、ク、クッと笑い出してしまった。
「何んの馬鹿らしい、考えてみれば、せっかく昆虫館をさがし中《あ》てた結果、いったい何を得たかというに、あの『騎士《ナイト》よ』という言葉だけだったってものさ」
自嘲的にならざるを得なかった。
「何をお笑いなさいます?」君江はちょっとば
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