神秘昆虫館
国枝史郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)鐘巻流《かねまきりゅう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)阪東|小篠《こしの》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)益※[#二の字点、1−2−22]
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        一

「お侍様というものは……」女役者の阪東|小篠《こしの》は、微妙に笑って云ったものである。「お強くなければなりません」
「俺は随分強いつもりだ」こう答えたのは一式小一郎で、年は二十三で、鐘巻流《かねまきりゅう》の名手であり、父は田安家《たやすけ》の家臣として、重望のある清左衛門であった。しかし小一郎は仕官していない。束縛されるのが厭だからで、放浪性の持ち主なのである。秀でた眉、ムッと高い鼻、眼尻がピンと切れ上がり、一脈剣気が漂っているが、物騒というところまでは行っていない。中肉中|丈《ぜい》、白色である。そうして性質は明るくて皮肉。
「どんなにあなたがお強くても、人を切ったことはございますまい」阪東小篠は
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